蝶の食物といっても当然幼虫期と成虫では異なります。ご承知のように幼虫期は植物の葉などを食べ、成虫になると花の蜜を吸うとか、動物の排泄物や完熟した果物の汁を吸うのが一般的ですが、種類によっては変わった食性をもつものも少なくはありません。

また蝶の場合、冒頭(蝶の調べ)でも述べましたが狭食性が強く、植物なら何でも食べるというのではなく、その種(仲間)ごとに限られた植物しか食べません。これが多くの種がぶつからずに生息できる「棲み分け」にもつながっているのです。

モンシロチョウはアブラナ科のキャベツなどの栽培種の傾向が強く、アゲハチョウはミカン類を食べ、さらにツマグロキチョウはカワラケツメイ、ギフチョウはカンアオイというように、その植物しか食べないのです。他の餌を与えても食べることなく餓死してしまいます。

このように種類ごとに餌とする植物が違うため、自然環境が豊かなほど植生も広く、多くの種の蝶が見られることになるのです。

ヒガンバナで吸蜜するクロアゲハ
ヒャクニチソウのツマグロヒョウモン
ミカンの葉を食べるアゲハの幼虫
スズカカンアオイを食べるギフチョウの幼虫

ここで変わった食性のものを紹介してみましょう。
ゴイシシジミ

日本でただ一種、幼虫・成虫を通して肉食性の蝶、ゴイシシジミがいます。幼虫時代の小さいころはアブラムシの出す蜜をなめ、大きくなるとアブラムシそのものを食べて育ちます。成虫では肉食性といってもアブラムシをムシャムシャと食べるわけではありませんが、ストロー状の口でアブラムシの出す蜜を吸うのです。
昔は笹薮などで普通に見られたのですが、最近では非常に珍しくなり、中部地区でも局地的にしか見ることが出来なくなってしまいました。

ゴイシシジミ
ゴイシシジミ(裏面)

蟻(あり)との共生
シジミチョウの大半は蟻と何らかのなかかわりをもっており、蟻の存在無しでは全く生きていけない種も相当数にのぼります。普通、蟻は肉食性なので蝶の幼虫でも食べてしまうのですが、共生関係にある仲間では、蝶の幼虫は蜜線から蟻の好きな蜜を出し、蟻はそれをもらう代わりに蝶の幼虫に餌を与えるのです。いつからこのような関係が生まれたのかは分かりませんが、全く不思議としか言いようがありません。
成虫になると、上記のゴイシシジミ以外は、普通の蝶のように花の蜜を吸うようになります。

クロシジミ

孵化(卵からかえること)した幼虫はアブラムシの蜜をなめて育ち、暫くするとクロオオアリにくわえられて巣の中に入り、幼虫期間のほとんどを同アリから口移しで餌をもらい成長するのです。私は飼育下でしか見てませんが確かに口移しで餌を貰うのです。
キマダラルリツバメ

この蝶もクロシジミと同じく、ハリブトシリアゲアリから口移しで餌を貰い成長します。以前は長野などの中部地区でも多く見られたのですが、最近ではほとんど見ることが出来なくなってしまいました。

クロシジミ(裏面)
キマダラルリツバメ(裏面)

ゴマシジミ

幼虫の中期までワレモコウの花やつぼみを食べて育ち、その後はシワクシケアリにくわえられ巣の中に運ばれ、その幼虫を食べて育ちます。
ムモンアカシジミ

こちらも最初はカシワの葉や、アブラムシの蜜をなめて育ち、後にクロクサアリの巣穴に入り、その幼虫を食べるようになるのです。
ゴマシジミ ムモンアカシジミ

この他にもオオゴマシジミやオオルリシジミなど同じような関係を持っています。例をあげればきりありませんが、なぜ小さなシジミチョウだけがこのような共生関係が生まれたのでしょう。やはり小さく狙われやすいことを逆手にとって、蜜を与えることによって身を守るうちに、餌を貰う関係が生まれたのでしょうか。
さらにシジミチョウの仲間は植物の葉でなく、花・つぼみそして実を食べるものが多いのも興味深いことです。